「ピークをたたき、ディップはほっとく」の原則2009年11月16日

 気がつかれている方もおおいかもしれませんが、6月発売のステレオサウンド誌2009年夏号の石井先生の「イコライザーの薦め」で訪問をいただいている2番目の人物は私です。いろいろお話を聞き、本当に役に立ちました。天井の電気器具の共振と止められたのも石井先生の測定のおかげです。

 最近、記事にある私の部屋の測定結果を穴のあくほど見つめているうちに、あることに気がつきました。
 私のDEQ2496の設定では、800Hzと1250Hzを左右とも大きく落としてあります。理由は、この付近に明らかに耳障りなピークがあるからです。ただし、PAA3やDEQ2496でのリアルタイムアナライザーでの周波数特性の測定でははっきりしたピークは見えず、聴感をたよりに探し出したものでした。おそらく非常に狭いピークがあるのだろう、と想像していました。

 石井先生による測定は細かな凸凹まで見えていますから、この800Hzと1250Hz付近のピークが見えてもよさそうな気がします。で、じっくりみていて気がつきました。いずれの周波数帯も、左右でピーク位置が少し違うと考えると、対応するピークが見えてきます。

 左は740Hzと1250Hz、右は860Hzと1400Hz付近にピークが出ている。私は、DEQ2496のグラフィックイコライザーGEQの800Hzと1250Hzを下げたことで、このピークを抑えているのだと思いますが、正しいピーク周波数から外れた周波数帯で、しかも左右をまとめて下げていることから、ピーク感が消えるところまで下げれば、800Hz、1250Hz付近のバンド全体では下げすぎになってしまう。これが弦楽器の輝きや艶を損ねているのではないか・・・。

ピークをたたく
 DEQ2496のパラメトリック・イコライザーPEQなら周波数自由。バンド幅も自由。これまでは正確な周波数がわからなかったので、PEQは低域にしか使えませんでしたが、石井先生のASA-10による正確な測定のおかげで周波数がわかりましたから、左右別に周波数をぴったりに設定してピークだけを叩くことが可能です。

 さっそくやってみました。まずはGEQの800Hzと1250Hzは元に戻し(両脇の周波数と連続に)、PEQで左右別の対応周波数のみを下げてみます。下げ幅は、石井先生の測定を頼りに、800Hz付近は-5dB、1250Hzのほうは-2.5dB。
 効果は劇的です。800Hzのレベルが上がったことで、クリア感がまったく違います。でも、うるさくないのです。声楽も弦楽器も非常に魅力的な音になってしまいました。さらに左右のレベルを、音(の定位ふらつき)を聞きながら微調整して完了。やはり測定は大事です。聴感だけではとてもここにはたどり着けないでしょう。
 現在、バンド幅を最適化中ですが、意外と広めがよいようで、そこがちょっと不思議です。あまり特性を急変させてはいけないということなのかな。

ディップはほっとく
 この効果に味をしめ、600Hz付近にあるディップも左右別にパラメトリックイコライザーで持ち上げてみることにしました。ところがです。これをやってみますと、明らかに定位が悪くなってしまいます。なにか定位がふらふら動く気がします。理由はおそらくは、以下のようなことでしょう。

 大きなピークやディップは、部屋の縦横上下の3軸の共鳴が関係していると思われます。各軸とも共鳴点は山のようにありますが、運悪く、そのうち複数軸の共鳴が同じ周波数のとき、大きなピーク・ディップとなるのではないでしょうか。で、特に左右の共鳴について考えます。

 ピークと感じる場合、定在波の腹が聞いている私の頭のあたりに来ているでしょう。一方、ディップでは、定在波の節が頭のあたりにあるはず。
 問題なのは位相です。腹の場合には、その付近の位相は同じですから、イコライザーで減衰させてピークを落とすのは望ましい結果を生みそうです。一方、ディップになる節については、節の左右で位相は反転します。だから、ディップで音が小さいからとイコライザーでブーストしてしまうと、右と左で位相が逆の音が増加してしまうと考えられます。人の耳は位相を聞きわけますから、定位はむちゃくちゃになるのも、もっともです。

 すなわち、波長が長い100Hz以下の低域は別として、数百Hz以上の周波数領域については、ピークはたたいて良いが、ディップを安直にブーストしてはいけないということです。これがタイトルの意味でした。

結論
 いや本当に勉強になりました。で、音も画期的に良くなってしまいました。DEQ2496は安いのに大変な威力です。「スピーカーを買い替えたくらい」の大変化です。